アミノ酸・タンパク質栄養とコレステロール代謝関連遺伝子の発現


Effect of amino acid and protein nutrition on the expression of genes relating cholesterol metabolism.

 食餌成分の多くは血清脂質を変動させる因子であることはよく知られているが、食餌脂質とならび食餌タンパク質もその変動因子として働いている。本研究では、食餌タンパク質の血清コレステロール濃度変動作用の機構解明を目的とし、コレステロール合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素や血清リポタンパク質の構成タンパク質であるアポリポタンパク質の遺伝子発現の変動について検討した。その結果、食餌タンパク質・アミノ酸は遺伝子の転写ならびにmRNA量を変化させることによりコレステロール代謝を調節する因子として働いていることが明きらかとなった。

 食餌タンパク質量のコレステロール代謝関連遺伝子の発現に与える影響

 無タンパク質食や5%カゼイン(CAS)の低タンパク質食に比べ、25% CAS食では、血清脂質(コレステロール・中性脂質・リン脂質)ならびに血清タンパク質は高く維持される。特に血清高密度リポタンパク質(HDL)の主要構成タンパク質であるアポリポタンパク質A-I (apo A-I)の変動は血清コレステロール濃度と比例し、食餌タンパク質の増加にともない大きく増加した。この時、肝臓のHMG-CoA還元酵素活性は食餌タンパク質量の増加にともない上昇していた。このことは、食餌タンパク質によるコレステロール合成の増加が血清コレステロール濃度の増加の一つの原因であることを示唆している。血清apo A-I濃度の増加ならびにHMG-CoA還元酵素活性の増加がどの様に調節されているのかを調べる目的で、肝臓・小腸におけるそれぞれのmRNA量をノーザンブロットとスロットブロットで調べた。肝臓において、食餌タンパク質の増加にともない血清アルブミン(1)・apo A-I(2)・HMG-CoA還元酵素・βアクチンのmRNA量は増加した。一方、apo E(3)のmRNA量は変化しなかった。肝臓とならび小腸はリポタンパク質合成の主要組織であり、apo A-Iの合成量は肝臓と同じ程度であるが、食餌タンパク質量による小腸apo A-I mRNAの変動はみられなかった。これらのことは、食餌タンパク質がHMG-CoA還元酵素・apo A-Iの遺伝子発現の組織特異的促進を通して、血清コレステロール濃度を変動させていることを示唆するものである。食餌タンパク質による肝臓apo A-I mRNAの増加が、転写の促進によるものかmRNAの安定性によるものかを調べるため、核run-offアッセイを行った。肝臓でのアルブミン・apo A-Iの転写量は食餌タンパク質量の増加にともない上昇し、その増加量はmRNAの増加量に相当するものであった。

 食餌タンパク質の質的相違・アミノ酸添加のコレステロール代謝関連遺伝子の発現に与える影響

 大豆タンパク質(SPI)などの植物性タンパク質はCASなどの動物性タンパク質に比べ血清コレステロール濃度を低下させることが知られている(4)。我々は、濃縮米タンパク質  (RPC)はSPIと同様に糞中ステロイド排泄を増加させるにもかかわらず、血清コレステロール濃度をSPIほど低下させないことを報告した(5)。この結果はSPIの血清コレステロール濃度低下作用は糞中ステロイド排泄の増加だけでは説明されず、タンパク質のアミノ酸組成によるリポタンパク質代謝に変動が起こっている可能性を示している。そこで、血清リポタンパク質の詳細な検討(6)、ならびにアポリポタンパク質の遺伝子発現の変動について検討を行った。
 血清コレステロール濃度は、SPI摂取により有意に低下し、アガロース電気泳動によりこの低下は主にα位(HDL)で起こっていることがわかった。血清apo A-I濃度はSPI摂取1日後でわずかに低下し、7日目では大きく低下していた。このことはSPIによるHDLの低下が1日目と7日目では異なったHDLで起こっていることを示しており、1日目ではapo A-Iに富んだHDLは大きく低下していないことを示唆している。血清アルブミン濃度も僅かではあるが、SPI群及びRPC群で有意に低下していた。
 SPIの1日摂取によりリポタンパク質全体が低下していたが、コレステロールでみると VLDL及びHDL1における低下が有意であった。SPIの7日摂取ではコレステロールはVLDL, HDL1,HDL2で有意な低下がみられた。アポリポタンパク質全体の変化でみると、1日目、7日目ともSPIで減少しているが、1日目ではapo A-IV, apo Eが顕著に減少しており、7日目では apo A-IV, apo A-Iの減少が大きかった。これらの結果は、SPIによって減少するリポタンパク質は主にHDLであるが、初期においてはapo Eに富んだHDL1が減少し、続いてapo A-Iに富んだHDL2が減少することを示している。一方、VLDLのSPIによる低下は、以前報告したように新生VLDLの放出速度の低下が一つの原因と考えられる(7)。
 7日目で起こっているapo A-Iに富んだHDL2のSPIによる低下は、肝臓及び小腸からのapoA-Iの放出・合成速度の低下によるものと考えられた(4,8)。そこで肝臓・小腸でのapo A-I mRNA量を調べたところ、血清apo A-I濃度がまだ減少していない1日目ですでに肝臓 apo A-I mRNA量はSPIにより減少しており、7日目でも同様に減少していた。小腸のapo A-I mRNA量はSPIによりむしろ増加していた。この結果は、SPIが肝臓特異的にapo A-Iの遺伝子発現を減少させ、その結果としてapo A-Iを含んだHDLの放出が減少し、血清HDL濃度が減少したことを示唆している。apo B(9)mRNA量は、肝臓・小腸で変化はみられなかった。
 SPIはCASに比べMet含量が少ないのが特徴であるので、SPIにCASと同量になるようにMetを添加しその影響をみた。Metの添加により、血清コレステロール濃度・apo A-I濃度・アルブミン濃度・肝臓apo A-I mRNA量はCASと同程度にまで増加し、肝臓でのapo A-I遺伝子の転写は Met添加により有意に促進された。この結果は、Metが肝臓apo A-I遺伝子の転写の促進を介して血清HDL濃度を増加させていることを示している。
 SPIでは含硫アミノ酸が制限アミノ酸であるが、Metのapo A-I遺伝子発現の促進効果が栄養価の改善によるものであるのか、Metの持つ特異的作用であるのかを検討する目的で、小麦グルテン(WG)にLys, Thr, Trpを添加したところ、制限アミノ酸の添加により血清コレステロール濃度・apo A-I濃度は有意に低下した。この時、肝臓apo A-I mRNA量は血清apo A-I濃度と同様に制限アミノ酸の添加により低下していた。一方、血清アルブミン濃度・肝臓アルブミンmRNA量は、SPI,WGともに制限アミノ酸の添加により増加した。アルブミンは食餌タンパク質の栄養価に比例してその遺伝子発現は調節されているが、apo A-Iの場合、含硫アミノ酸の含量により遺伝子発現が調節されていると考えられる。

−文献−

1. Iwatsuki,N., Hattori,T., Iwasaki,Y., Nakano,M. & Nakamura,K. (1987) Agric. Biol.Chem., 51, 379-384.
2. Boguski,M.S., Elshoubagy,N., Taylar,J.M. & Gordon,J.I. (1985) Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 82, 992-996.
3. Higuchi,K., Tajima,S., Menju,M. & Yamamoto,A. (1989) J.Biochem., 106, 98-103.
4. Nagata,Y., Ishikawa,N. & Sugano,M. (1982) J.Nutr., 112, 1614-1625.
5. Yoshida,A., Aoyama,Y., Oda,H. & Okumura,Y. (1990) Monograph on atherosclerosis, 16, 1-10.
6. Hatch,F.T. & Lees,R.S. (1968) Adv.Lipid Res., 6, 1-68.
7. Yoshida,A., Fukui,H., Aoyama,Y. & Oda,H. (1990) J.Nutr.Sci.Vitaminol., 36 (Suppl.), S137-S139.
8. Tanaka,K., Imaizumi,K. & Sugano,M. (1983) J.Nutr., 113, 1388-1394.
9. Reuben,M.A., Svenson,K.L., Doolittle,M.H., Johnson,D.F., Lusis,A.J. & Elovson,J. (1988) J.Lipie Res. 29, 1337-1347.

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25770 Updated 5/10/97